英国EU離脱決定―視点を変えれば新たなビジネスチャンスも

25 June 2016

2016年6月24日未明、国民投票の結果、英国のEU離脱という衝撃的なニュースが飛び込んできました。一夜明けた今も国全体がまだこの結果へのショックを受け入れらない状態で、英国メディアは、今後の余波について様々な専門家の意見を交えながら終日報道を続けています。これらの情報をもとに、日英ビジネスへの影響について私の個人的な見解をまとめてみたいと思います。

 

ふたつのシナリオ

 

ビジネス、貿易という観点から見た英国の今後として、下記のような「最善」と「最悪」のシナリオが示されているようです。

 

最善のシナリオ

 

EU規制の影響がなくなり、英国独自で自由に貿易協定を設定することができる為、世界各国とのFTA(自由貿易協定)が可能

EUとのFTAの可能性(EU主要各国が対英貿易黒字の為、英国を無視できない)

北大西洋自由貿易地域(NAFTA)に加入する可能性

 

最悪のシナリオ

 

EU離脱の際厳しい対応を受け、EU経済圏から締め出され、高い関税を課される

米国はEUとの貿易交渉を優先し、英国は後回しとなる

多国籍企業の多くが英国の拠点を清算、雇用と経済に打撃となる

 

EUの玄関口としての英国

 

国民投票の前、現在英国にヨーロッパ統括本部を設けている複数の多国籍企業に見解をお聞きしました。どの企業も 「EUの玄関口」としての英国に大きな魅力を感じており、英国はEUに残留すべきであるという意見でした。離脱が確実となった今、これらの企業、特に英国に製造拠点を設けEUを主な輸出先としてきた企業は、難しい選択を迫られることになるでしょう。

日英ビジネスに関わる私も、クライアント企業様及び弊社のビジネスの方向性と戦略についての見直しを始めています。

 

仮に英国がEU市場への玄関口でなくなっても、英国が持ち続けることのできる「魅力」とは、いったい何なのでしょうか。

 

英国市場そのものの価値

 

私が関わりの深い産業分野を例にとりますと、クリーンテック、エネルギー、AI(人工知能)、自動車、ライフサイエンス等において、世界に先駆けた技術、製品開発、及びそれらを取り巻く法制度や標準化も含めた仕組みづくりが進められています。そして、これらのイギリス発の製品やサービスを世界市場に通用させるクオリティに高める過程で、日本企業の高い技術、製品開発力が強く求められる例をいくつも見てきました。日本ではまだあまり知られていませんが、英国は特に2010年頃から高付加価値のものづくりにも力を入れています。

また、英国発の製品やサービスを日本企業や大学と協働で発展させ、日本からアジア市場ひいては世界市場へ展開しようとする流れも健在です。

このように、最先端技術を追求する姿勢、政府によるバックアップの体制は非常に堅実で、今回のEU離脱のデメリットと差し引きしたとしても、日本をはじめとする海外企業にとって引き続き捨てがたい魅力であり続けると私は考えています。

 

「英国連邦」市場の可能性

 

英国は、GDP世界第5位とはいえ、人口もGDPも日本の約半分にしか満たない小さな島国です(※1)。しかし、英国は英連邦53カ国と緊密な連携を保っており、これは非常に強い武器となっています。例えば英連邦(英国植民地時代を経て現在も英国と密接な関係にある53の国々 ※2)に属するアジアの国々(インド、シンガポールなど)では英国の動向に常に敏感で、英国で流行するものはいち早く取り入れようとする動きがあるとも聞きます。実際に、まず英国市場でのお墨付きを得、それを持ってアジア進出をともくろむ日本や他国の複数企業の話もお聞きしました。

これまでは、日本—英国—欧州という順番がグローバル進出の王道でしたが、日本—英国—英連邦という新たな市場展開の可能性にも目を向けると、そこに新たなビジネスチャンスが生まれるかもしれません。

 

その国に合ったビジネス戦略の重要性

 

今回の国民投票では、アイデンティティや地域主義も改めて浮き彫りとなりましたが、これらは英国に留まらず他国においても顕在化してきています。日本企業にとっては、グローバル、ヨーロッパという大きな捉え方だけではなく、国や地域の特性を加味したミクロ戦略がより重要になってくると感じています。また、これらの国や地域が他国(地域)とどういう関係性にあるのかを抑え、その相手先の国(地域)でのビジネスチャンスにもつなげられるような策を講じるのが肝要ではないかとも考えます。

 

英国らしい外交・交渉力への期待

 

当面の間、混乱は避けられないでしょう。キャメンロン首相が辞意を表明した今、次期首相、政権の舵取りに依存するところが大きくなりますが、英国は総じて外交力、交渉力の強い国だと思います。自国の強みと弱みをよく見極めていて、自国の強みを生かしつつ、弱い部分は強い国の力を借りる、そして利害が必ずしも一致しない相手とでもうまくWin-Winの関係を築くことができる、それが英国の強さだと感じます。

最終的には、このような英国ならではの強みを生かして、 世界経済の中で確固たる地位を確立するのではないか、というのが私の今の見解です。

 

※1 2015年人口(国連):日本126,818,019人、英国63,843,856人。2015年GDP(IMF): 日本US$4,123 Billion、英国US$2,849 Billion

※2  英連邦、及びその加盟国の情報  http://thecommonwealth.org/member-countries