英国ロンドンに本社を置くオービーエム( オーシャンブリッジ・マネジメント株式会社)代表、江口・ベイコン昌子による、日英間ビジネスがテーマのコラムです。

 

新1ポンド硬貨とBREXIT  ー  英国政府の決意

19 April 2016

英国で発行された新1ポンド硬貨。そこに施された刻印のデザインに、Brexitにかける英国政府の強い決意を感じられる気がします。

そして昨日のメイ首相による解散・総選挙発表。首相はなぜ、今を選んだのでしょうか。

 

1ポンド硬貨のデザインに見る「国」のかたち

 

英国は、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドという4つの(主権国家ではない)国々の連合王国です。英国で生活していると、これら4カ国の人々の「国」としての意識と誇りの高さを日常的に感じます。

英国の1ポンド硬貨をよく見ると、各国の特性を刻印のデザインに盛り込んだものが多いことに気づきます。例えば私の手元にある1ポンド硬貨(ページ上の写真、上2列)にある王室紋章は英国 (United Kingdom)、水仙、リーク(ポロネギ)、ドラゴンはウェールズ、樫の木はイングランド、カタバミ、亜麻の花 は北アイルランドを象徴しています。また手元にはありませんでしたが、スコットランドを表すライオンやアザミを刻印したものもあります。

 

そしてつい最近、新1ポンド硬貨が出回るようになりました。(ページ上写真の一番下。拡大下記。)

 

2017年末には現行の1ポンド硬貨は使用不可となってしまうそうで、「貯金箱、ソファの隙間などを探して、あれば早く使いましょう。」といった新聞記事が出たりしています。

英国政府によると、1ポンド硬貨は偽造されることが多かったため、12角形にすることでそれを防止する狙いだそうです。

そしてその刻印部分のデザインにも政府の意図がうかがえます。左からバラ(イングランド)、リーク(ウェールズ)、アザミ(スコットランド)、カタバミ(北アイルランド) と、「英国すべての国」の象徴が調和したものになっているのです。

 

2017年3月29日には、英国がArticle 50(リスボン条約50条)に基づき欧州理事会へ離脱を正式通知したばかり。その直前にはスコットランド首相がスコットランド独立を求める国民投票を再度行うべきとの意見表明も行いました。

そんな中でのこの新1ポンド硬貨発行。

刻印のデザインはもっと前に決定していたであろうとは思うのですが、このタイミングでこのデザインというところに、「英国が一丸となって離脱に取り組むのだ」という英国政府の強い決意を見た気がするのです。

 

突然の解散・総選挙

 

2017年4月18日、メイ首相が下院の解散、そしてそれにともなう総選挙を6月8日に行うと発表しました。(英国では首相には議会解散決定権がないため、解散の実現には下院の3分の2以上の賛成が必要になります。本日4 月19日に下院議員による投票が行われ、賛成多数で可決しました。)

もともと2020年に実施を予定していた下院選挙の3年前倒しを決定したメイ首相。

 

私自身はこれほど早く行うとは思っていなかったので正直驚きましたが、実は絶妙なタイミングなのかもしれません。

野党第一党の労働党の基盤が揺らいでいる今であれば、与党保守党への支持拡大が見込めます。また与党内においても、Hard Brexit(強硬離脱)へ難色を示す議員が多いことも事実で、メイ首相はこの時期にあえてあらためて国民の信を問い、保守党大勝という結果をもって国が一丸となり離脱のプロセスを確実に進めたいという強固な意志を示したのでしょう。

 

EU離脱交渉の期間は2年間、つまり2019年3月までになりますが、この2年ですべての段取りを完了するのはほぼ不可能と言われています。さらに、EUのみならず他国との交渉・協定も必要となります。そこに2020年の解散・総選挙が加わるとなると、英国の内政に一定の混乱や保守党支持層の不安定化のリスクが生じる可能性もあります。これらを考えると、今が最適と判断した首相の思惑も理解できるように思います。

 

最近の国際情勢を見ていると「予想通り」の結果にならないことも少なくありません。このままメイ首相の思惑通り保守党の大勝となるか、6月8日の結果を見守りたいと思います。