英国政府にみる異業種間協業の取り組み

13 July 2018

近年、新技術が業界を越えて導入されるケースが増えてきています。例えば、電気自動車(EV)関連の技術は、エネルギー業界と自動車業界両方にまたがるものといえるでしょう。

しかし、異なる業界間での協業は決して容易なことではありません。

 

英国では、EVの導入が進むにつれ全く異なる2つの業界が果たしてうまく協業できるのかという懸念の声がよく聞かれるようになりました。一方で、業界間の境界線や縦割りを減らすことでイノベーションを加速させる仕組みを社会全体として整えようとする動きも見られます。その一例として、英国政府の取り組みをご紹介したいと思います。

 

英国政府主催のEV関連のセミナーやワークショップに毎年参加していますが、近年はエネルギー分野・自動車分野両方の政府担当者が出席するようになりました。政府レベルでも縦割りを無くそうとする努力がここにうかがえます。

さらにもう一歩前進したと感じたのが、6月7日にCoventry(コベントリー)にて開催された”Electric Vehicles Towards an Excellent User Experience Seminar”です。

 

英国政府主催のこのセミナーは、交通システム、エネルギー、未来都市、高付加価値マニュファクチャリングの4分野のCatapult(カタパルト)が協働でEV関連プロジェクトを推進するという初めての試みについて、英国政府 Innovate UK が参加者から意見や提言を集めるためのものでした。

 

カタパルトとは、先進的・革新的なアイディアや学術研究を産業化・商業化する過程を支援するために英国政府が2010年頃より開始した仕組みで、現在11分野のカタパルトがあります。

 

今回のプロジェクトの最大の目的は、ユーザーに有用なEVやインフラ、社会の仕組みを作ることです。技術開発や技術導入も、技術ありきではなく、ユーザーにとって有用かどうか、ユーザーに選ばれるかどうかをより重視します。

その目的のため、異なる分野の政府機関が協働し、様々な見解や課題を表面化させ→イノベーションを促進し→サプライチェーンを提言する、というプロセスでプロジェクトを進行していきます。

 

“100年に一度”の大変革とも言われるEVシフトが進む中、その開発にあたって異分野にまたがる技術の導入・応用やユーザー目線での検討が非常に重要であり、それらを積極的に推進しようとする英国政府の姿勢は素晴らしいと感じます。

 

同時に、私個人としては、下記のような課題があると考えています。

 

 • このような異業種協業の仕組みを産業界にも波及させることができるか。

 

 • 各産業間に加え、産官学の間での異なる時間軸をどのように調整するか。

  (例:大学では5-10年スパンで開発を行うのが一般的な一方で、ROIを1年で達成したい企業があるなど)

 

 • 最終的な提案・提言が、ユーザーにとって真に有用で、実際のマーケットにもマッチするものとなるか。

 

今後の展開を引き続き注視していきたいと思います。