英国政府、2020年度予算案発表

13 March 2020

2020年3月11日、リシ・スナーク財務相は 2020年度の予算案を発表しました。

複数の分野にわたり大幅な歳出予算増となり、過去10年に及ぶ緊縮財政は終わりを迎えたと言えるでしょう。

 

この予算増に伴い、1,250億ポンド(約16兆8750億円)以上の借り入れが必要となる見通しです。

このコラムでは、特に弊社や弊社のお客様に関連する分野について、予算概要をまとめます。

 

輸出・貿易政策  

 

貿易政策はブレグジット移行期間終了後に改めて発表されるが、世界各国への英国企業の輸出を促進するため、下記の政策が定められた。

  • アジア太平洋地域への英国企業の輸出促進の目的で、£800万ポンド(約10億8,000万円)を充当してDigital Trade Networkを設立する。国際通商省とデジタル・文化・メディア・スポーツ省が管轄する。
  • 輸出信用保証庁にも追加予算が充当され、環境に配慮しつつビジネス成長を目指すプロジェクトへ£20億ポンド(約2,700億円)の追加貸付枠、英国の防衛、セキュリティー関連製品やサービスを購入する外国企業に対して£10億ポンド(約1,350億円)の追加貸付枠を設定する。

科学技術

 

英国政府は、科学技術は経済を牽引する重要な要素であると位置付けており、2024/25年まで毎年220億ポンドを上限とする予算を研究開発へ充当する。

主な分野は下記。

  • £8億ポンド(約1,080億円)を充当し、米国国防高等研究計画局(Defence Advanced Research Projects Agency)と同様の、最新技術開発および研究を行う施設を設立する。
  • 核融合、航空宇宙、電気自動車、ライフサイエンス等の分野において技術開発を行う英国企業に対し、合計£9億ポンド(約1,215億円)を補助する。
  • 数学研究に対し、2020/21年から2024/25年まで£3億ポンド(約405億円)を充当する。
  • 防衛関連の研究開発については、航空、宇宙用駆動技術の新開発に£1億ポンド(約135億円)を追加支給する。
  • アニマルヘルスの分野には£14億ポンド(約1,890億円)が充当され、動物の疾患に関する研究を支援する。

エネルギー:電力、産業、熱分野の脱炭素化 

 

今回の予算案には、英国のカーボンニュートラル達成に向けた項目も数多く含まれている。

 

 エネルギー生産関連の税制変更

  • ガス利用を抑制するため、ガスの気候変動税(*1)を2022/23年には£0.00568/kWhへ、2023/24年には£0.00672/kWhへと増税する。電気への気候変動税は変更なし。
  • 気候変動協定Climate Change Agreement (CCA) (*2)を2年延長し、政府機関や産業における省エネルギー対策や脱炭素化を推進する。
  • CO2排出価格Carbon price support (CPS)については、2021/22年は£18t/CO2eで据え置き、電力業界の脱炭素化を推進する。
  • ブレグジット移行期間が終了する2021年1月1日以降も、「野心的な」カーボンプライシング(炭素価格付け)を継続することが言及された。英国独自の排出量取引制度Emissions Trading System (ETS)(欧州連合域内排出量取引制度との連携も視野に入れている)導入に向け、2020年に新たな法令を制定する。カーボンプライシング(炭素価格付け)政策に代わり炭素排出税を導入する案については、2020年にコンサルテーション(*3)が行われる。

 

 電力、産業、熱分野の脱炭素化 推進に向けて

  • £8億ポンド(約1,080億円)を充当し、英国内に最低2箇所(1箇所は2020年半ばまで、2箇所目は2030年までに)二酸化炭素回収貯留 (CCS)施設を建築する。
  • 英国初、民間主導の二酸化炭素回収貯留 (CCS)施設を併設したガス火力発電所の建設(2030年目処)を支援する。これには需要家から徴収した電気料金を充当する。
  • 中小企業や家庭におけるヒートポンプやバイオマスボイラーの導入促進に向けて2022年4月から政府補助金を導入する案についてコンサルテーションを開始し、£1億ポンド(約135億円)を支給する。
  • 再生可能熱インセンティブRenewable Heat Incentive (RHI)は2022年3月31日まで延長される。さらに、一般家庭を除く再生可能熱インセンティブには売電価格の保証も追加され、再生可能熱プロジェクトへの投資を促進する。
  • 熱供給ネットワークへの投資は継続される。現行の熱供給ネットワーク投資プロジェクト(Heat Networks Investment Project)については、プロジェクトが終了する2022年までに9,600万ポンド(約130億円)を投入する。このプロジェクト終了後には、£2億7,000万ポンド(約365億円)の新たなスキームGreen Heat Networks Schemeが開始され、既存、新規の熱供給ネットワークへ排熱利用機能を組み込む。
  • 熱供給網内のバイオガスの割合を増加させるため、メタンガス製造に税金を投入する案について、コンサルテーションが行われる。

 

電気自動車、自動車による大気汚染の削減

 

政府はゼロエミッション車増加目標を掲げており、当初2040年に設定されていたガソリン、ディーゼル車の新車販売禁止をさらに前倒しする方向でコンサルテーションを行っている。今回の予算案では下記が発表されている。 

  • 4億300万ポンド(約544億円)を追加で充当し、低排出ガス車の購入時補助金(Plug-in Car Grant)を2022-23年まで延長する。
  • 高速EV充電ポイント拡充のため、今後5年間にわたり5億ポンド(約675億円)を投入する。

 

注釈:

  • ポンド・円換算は1ポンド=135円を適用
  • *1 気候変動税Climate Change Levy (CCL) : 産業、公共機関などを対象にした課税制度で、一般家庭は対象外。
  • *2 気候変動協定Climate Change Agreement (CCA): 企業や組織が政府と協議して温暖化ガス排出削減目標を設定する。
  • *3「コンサルテーション」とは、英国政府が新たな政策や規制等の制定を目指す際、有識者、利害関係者や国民から意見を募り、その結果を政策や規制へ反映させる手続きをいう。

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