日英経済版2+2と産業政策パートナーシップが拓く「共創」の未来

4 August 2025

弊社OBMでは、過去15年に渡り日英関係に深く関わって参りましたが、特に2025年3月と7月に相次いで締結された重要な政府間合意は、特にビジネスとって追い風になると確信しています。本稿では、こうした良好な日英関係を背景に、両国の産業政策における戦略的な相互補完関係を詳しく分析し、今後のビジネス機会を展望します。

 

日英関係の発展の軌跡

2016年の国民投票によるEU離脱決定以降、日英関係は着実に強化されてきました。2020年12月のEU離脱完了後、両国は戦略的パートナーシップを一層深化させています。特に注目すべきは、2022年5月のG7で発表された「日英『広島アコード』共同声明」です。これにより、両国の「強化されたグローバルパートナーシップ」が明確に打ち出されました。

このような発展の背景には、両国が共有する基本的な価値観があります。経済面では、英国が日本にとって欧州地域で最大の投資国の一つであり、安全保障分野では、インド太平洋地域での協力が強化されています。また、科学技術分野でもイノベーション推進での連携が深まっています。

2025年、日英関係を新たなステージへ導く政府間合意

 このように日英関係が深まる中、2025年には、両国関係を飛躍的に発展させる画期的な合意が2つ締結されました。

 

1. 日英経済版2+2関係閣僚会合(2025年3月7日)

2025年3月7日、東京で開催された初回の日英経済版2+2関係会合は、日英関係史上、画期的な意味を持つものです。この会合では、両国の外務大臣と経済産業大臣(英国はビジネス・貿易大臣)が一堂に会し、以下の重要な分野で合意が確認されました。

 

·       経済安全保障: サプライチェーンの強化、公正な市場の発展

·       自由で開かれた国際貿易: WTOを中心とした多角的貿易体制の強化

·       エネルギー安全保障: 再生可能エネルギー、洋上風力発電での協力

·       産業政策パートナーシップ(MOU): 産業政策構築における協力枠組み

 

特に注目すべきは、次世代量子コンピューティング開発における、日英産業パートナー間の覚書署名です。これは、両国の技術的優位性を活かした具体的な協力の象徴といえるでしょう。

 

2. 対日直接投資促進に関する協力覚書(2025年7月9日)

2025年7月9日には、内閣府と英国ビジネス・貿易省の間で、対日直接投資促進に関する協力覚書が締結されました。この合意は、英国からの対日投資をさらに拡大することを目的としています。

特筆すべきは、英国からの対日直接投資残高が直近10年で4倍以上に増加し、国別で第2位(2014年末: 約2兆円 → 2024年末: 約9兆円)に達していることです。この覚書により、今後さらなる投資拡大が期待されます。

 

日英両国の産業政策:戦略的な相互補完性

両国の産業政策を比較することで、どのような分野で協力のチャンスがあるのかが見えてきます。

 

英国の産業戦略が掲げる8つの重点分野

英国政府が2025年6月23日に発表した「新たな産業戦略(The UK's Modern Industrial Strategy)」では、将来の成長を牽引する8つの優先セクターが特定されました。

 

1.    先端製造業(Advanced Manufacturing)

2.    クリーンエネルギー産業(Clean Energy Industries)

3.    クリエイティブ産業(Creative Industries)

4.    防衛(Defence)

5.    デジタル・テクノロジー(Digital and Technologies)

6.    金融サービス(Financial Services)

7.    ライフサイエンス(Life Sciences)

8.    専門職・ビジネスサービス(Professional and Business Services)

 

 

これらの優先セクターを見ると、日本の強みと親和性が高い分野(先端製造業、クリーンエネルギーなど)がある一方で、英国ならではの強みを持つ分野(デジタル、金融等)との相互補完的な関係性も見て取れます。これにより、両国企業にとって多様なビジネス機会が創出されると期待されます。

 

 

 

日英ビジネスにとってのプラス材料

 

 これらの政府間合意や両国の産業政策を比較すると、多様な分野に協業のプラス材料があることがわかります。

 

GX・クリーンエネルギー分野: 日本のGX政策(150兆円投資)と英国のクリーンエネルギー産業政策は、互いの強みを活かせます。洋上風力発電での具体的な協力覚書や、2050年ネットゼロという共通目標が、協力をさらに加速させるでしょう。

DX・デジタル技術分野: 日本の半導体戦略と英国のデジタル・テクノロジー重点政策は、互いに補完し合う関係です。量子コンピューティングでの産業パートナーシップは、AI・データサイエンス分野での協力にもつながる可能性を秘めています。

ライフサイエンス・ヘルステック分野: 日本の健康産業政策(77兆円市場目標)と英国のライフサイエンス重点政策はその方向性が合致しています。バイオものづくり分野での技術的相互補完も可能になるのではと思われます。

イノベーション分野:日本の「経済産業政策の新機軸について」の中でもイノベーションやアントレプレナーの視点の重要性に触れられていますが、前回のInsight記事でもご紹介しましたように、イノベーションに強みを持つのも英国の特徴です。

 

この相互補完性こそが、両国企業にとって多様なビジネス機会を創出する大きな要因となると期待されます。

 

最後に

これらの一連の政府間合意を経て、日英関係がより具体的な協業に向けたステージに入ったと言えるでしょう。特に、英国の新たな産業戦略と、3月・7月の政府間合意は、日英間の共創をさらに促進するきっかけとなると考えます。

 

日英間での協業、投資やオープンイノベーションプロジェクトを検討されている企業様には、これらの政策的な追い風を活かし、早期に関係構築に取り組むことをお勧めします。弊社OBMでは、豊富な経験を基に、貴社の日英ビジネス戦略の実現をご支援させていただきます。ぜひお気軽にお問い合わせください。