27 May 2025
世界的に不確実性が高まる中、世界中の企業にとって持続的な経済成長への道はますます困難になっています。私たちオーシャンブリッジ・マネジメントは、これまで数多くの日英オープンイノベーションに関与してきた経験から、国境を越えたオープンイノベーションがこれらの課題に対処する有力なソリューションの一つになると確信しています。
5月8日、弊社CEO江口・ベイコン昌子がSusHi Tech Tokyo 2025におけるジェトロ主催セッション「日欧オープンイノベーション ―現場の実務家が語る『Why?』と『How?』―」に登壇いたしました。本稿では、その際にご紹介した内容に最新情報も加え、英国ならではの強み、日英間のオープンイノベーションが特に進展しやすい分野、そしてイノベーションを成功に導くための秘訣などを共有させていただきます。
SusHi Tech Tokyo 2025におけるJETROのパネルセッション。野島大佑氏(横河イノベーションスイス)、オリバー・ホール氏(ノルディック・アジアン・ベンチャー・アライアンス)、江口・ベイコン昌子(オーシャンブリッジ・マネジメント)が欧州・日本のオープンイノベーションについて議論を交わしました。モデレーターはジェトロ・ロンドン事務所 次長 崎重雅英氏が務めました。
日本企業が欧州とのパートナーシップを検討すべき理由の一つとして、この地域における資本投資の驚くべき回復力と成長が挙げられます。Atomico社の「State of European Tech」レポートの最新データによると、2023年と2020年を比較した場合、欧州は資本投資額でプラス成長を示している唯一の主要な地域となっています。
データからは地域間の顕著な違いが見て取れます。米国(-1%)、中国(-7%)、その他の地域(-8%)への資本投資が2020年の水準と比較してすべて減少したのに対し、欧州は18%という目覚ましい成長を達成しました。2023年には450億ドルが投資され、欧州は厳しい世界経済状況にもかかわらず、顕著な回復力を示しています。
欧州において、英国はベンチャーキャピタルリーダーとしての地位を堅持しています。Dealroom社の「Europe Tech Update 2025年第1四半期版」の最新データは、英国の優位性を明確に示しています。
英国は2025年第1四半期に42億ドルのベンチャーキャピタル投資を誘致しました。これはドイツ(18億ドル)の2倍以上、フランス(14億ドル)の約3倍に相当します。特に心強いのは、英国が2024年の同期間と比較して8%増と、成長軌道を維持していることです。これは、ドイツ(-14%)、フランス(-28%)、オランダ(-56%)といった欧州大陸の主要経済国が大幅な減少を経験しているのとは対照的です。
欧州で戦略的なイノベーションパートナーシップを求める日本企業にとって、規模、成長性、安定性を兼ね備えた英国は、特に魅力的な投資先となっています。ベンチャーキャピタルの継続的な流入は、英国のイノベーションエコシステムに対する強い信頼を示しており、国境を越えたコラボレーションを成功に導く豊かな環境を作り出しています。
イノベーションの視野を広げようとしている日本企業にとって、英国が特に魅力的なパートナーとなる要因がいくつかあります。
1. 「ゼロイチ」:英国のイノベーション文化
英国は、「ゼロイチ」、つまり何もないところから変革的なイノベーションを生み出す力に優れています。同国の強力な学術機関、起業家文化、そして支援体制の整ったエコシステムが、画期的なアイデアの開花を促し、世界中の投資家や企業を惹きつけてきました。一方で、「1から商用化、大量生産化する」段階では必ずしも強みを発揮できない英国企業も少なくありません。この点において、アイデアを製品化・事業化するプロセスに長けた日本企業との協業は、非常に意義深いものと確信しています。
2. グローバル・コネクション
日本ではあまり認識されていないかもしれませんが、英国の強みの一つに、その卓越したグローバルコネクションが挙げられます。英連邦(コモンウェルス)はその好例です。英国は56の加盟国から成るコモンウェルスの中心的存在として、広大な国際社会へのゲートウェイとしての役割を担っています。コモンウェルス・イノベーション・ハブは、これらの多様な経済圏全体のパートナーシップを育成し、国境を越えたイノベーションのためのユニークな機会を創出しています。
3. 合理的な企業価値評価
日本企業が英国のイノベーションパートナーシップを検討する上で、もう一つの魅力的な要因は、他の主要なテクノロジーハブ、特に米国と比較して企業価値評価が比較的抑えられている点です。これにより、より有利な投資条件や、イノベーション投資における潜在的により高いリターンを得る機会が生まれます。
4. 高付加価値製造業における隠れた強み
英国は金融サービスやクリエイティブ産業での強みが広く認識されていますが、高付加価値製造業やエンジニアリングにおける能力は、日本企業に見過ごされがちです。顕著な例がF1(フォーミュラワン)で、10チーム中7チームが英国に拠点を置いており、英国が世界に誇るエンジニアリング能力と製造イノベーションを有していることを示しています。
5. 英国の産業政策:連携機会の創出
英国政府が2024年11月に発表した産業戦略グリーンペーパー(政策協議文書)は、日本企業が潜在的協業を模索する上で良い参考情報になります。英国政府は将来の成長を牽引する8つの優先セクターを下記のように特定しています。
これらの優先セクターは、日本自身の産業上の強みやイノベーションニーズとも合致しています。
英国と日本の関係は近年著しく強化されています。その重要なマイルストーンとして、2025年3月7日開催の経済版「2+2」閣僚会合における、両国による産業政策協力に関する覚書(MOU)への署名が挙げられます。特に注目されたのは量子科学技術に関する覚書で、これはインフラ、テスト施設、商業化の取り組みを強化し、研究への共同アクセスを奨励することを目指しています。この合意は、最先端分野における技術協力を深化させるという両国のコミットメントを示すものです。両国政府は、さらなる協力分野を特定するための議論を継続しています。
英国企業とのオープンイノベーションをご検討中の日本の皆様に、ぜひお伝えしたいことがあります。それは、英国のスタートアップとは「早い段階から関わる」という点です。 近年、多くの日本企業様から、英国スタートアップが成熟した後(通常シリーズAまたはシリーズB段階)に連携を検討したいとのご意向を伺うことがあります。しかしながら、米国や欧州の企業は、英国スタートアップとかなり早期から関係構築に着手しています。英国企業が成熟するのを待つ姿勢では、こうした海外企業に後れを取ってしまう可能性があります。必ずしも初期段階から大規模な投資を前提とする必要はありません。例えば、R&Dプロジェクトとして比較的小さな規模で協業を開始することにより、真の戦略的パートナーシップを築き上げることが可能となり、将来の本格的な投資の価値も一層高まるでしょう。
英国は欧州市場の中でも、日本企業にとって特に魅力的なイノベーション・パートナーとなり得ます。本稿で概説した英国ならではの強みを活かし、スタートアップと早期に関わることで、日本企業はグローバルな競争環境において大きな成果を期待できるでしょう。
オーシャンブリッジマネジメントは、15年以上にわたり、日本、英国、欧州間のクロスボーダー事業開発やオープンイノベーションプロジェクト、投資案件をご支援してまいりました。日本企業と英国スタートアップとの連携、日本のスタートアップの英国への事業展開など多岐にわたります。
貴社の英国におけるイノベーション戦略の実現や、具体的な協業パートナー探索など、ぜひお気軽にこちらよりお問い合わせください。
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*本記事中に使用したスライドは、JETROが作成され、SusHi Tech Tokyo 2025で発表されたものです。